神殺しのクロノスタシスⅣ

むしろ俺は、お前が相変わらずで安心したよ。

昨日『サンクチュアリ』の活動拠点、あの魔法陣の前で。

珍しく、危機感のある発言をしていたからな。

あれに近寄るな、と。

あのときは、ベリクリーデがベリクリーデじゃなくなったみたいで、肝を冷やしたもんだが。

翌日になったら、こうして謎のバレエレッスンを始めている。

「…ほっ…。…あれ」

そして、何度も爪先立ちを繰り返しては、2秒足らずで崩れている。

全ッ然出来てない。

それと。

「…新体操はやめたのか?」

前は、新体操やってなかった?

今度はバレエに転向したのか。

「うん。ジュリスが何だか不評みたいだったから…」

俺のせいなのか?

「今度は、こっちにした」

そう言って、ベリクリーデはサッ、と一冊の本を見せてきた。

タイトルはもう、言わなくても分かるな?

『猿でも分かる!初めてのバレエ』

うん、知ってた。

あと、本一冊で始めるものではない。

「新体操の本の横に置いてあったから、一緒に買ったんだー」

「あ、そ…」

そんなことだろうと思ってたよ。

「なんだか大変なことになったから、こんなときこそ、柔軟にならないとね」

そう言って、ベリクリーデは本を開き。

今度は爪先立ちのまま、くるくる回り始めた。

が、爪先立ちだと難しいのか(当たり前)、すぐにガクンと踵が落ちる。

「あぅ〜…」

…そりゃ初心者で、しかも本一冊でピルエットなんて、そう簡単に出来るかよ。

あとな、前も言ったけど。

身体を柔軟にしても、仕方ないからな?

頭だよ、頭。頭の方を柔軟にしろ。

…って言っても、ベリクリーデには通じんだろうなぁ…。

と、俺は自分の髪の毛をくしゃり、とかき上げ。

溜め息混じりにベリクリーデに言った。

「なぁ、ベリクリーデ」

「なにー?」

「お前昨日、あの魔法陣と水晶玉を見て、あれに近寄ったら駄目だって言ったよな?」

シルナ・エインリーが沈黙するなら。

他に手がかりになる人物は、あれを「神に触れる力」だと断言した、ベリクリーデくらいだ。

羽久・グラスフィアも、ベリクリーデほどではないにせよ、少なからずあれに反応していた。

頼りない手がかりだが、今はどんな手がかりでも、ないよりはマシだ。

すると。

「魔法陣?」

「床に、赤い奇妙な模様が浮き上がってただろ。あれに近寄るなって言ったんじゃないのか」

「あぁ、あの落書きみたいなの?あれは何ともないよ」

魔法陣を落書き呼ばわりかよ。

いや、それより。

「魔法陣は、危険じゃないのか?」

俺はてっきりあの魔法陣と、水晶玉がセットで危険だと言っているのかと、そう思っていたが…。

違うのか?