神殺しのクロノスタシスⅣ

「いつもうるさいのが静かだと、逆に違和感がありますね」

イレース、本人を前にしても、全く容赦なし。

お前って奴は…。

「き、昨日帰ってからですよね…?魔導部隊大隊長の方がいなくなった、とか…」

「えぇ。戦力が必要なら、我々も手を貸せますが…。さすがに、行方不明の捜索は私も専門外です」

「…僕も…」

大丈夫だ、天音。俺もだから。

「まぁ、静かだろうが騒いでいようが笹を食べていようが、仕事は仕事です。これ、明日までにお願いしますよ」

「え、う、うん…」

イレースは意気消沈しているシルナの前に、ドサッ、と書類の束を置いた。

…本当に容赦ない。

と、思ったが。

「まぁ、仕事でもやっていれば、少しは気も紛れるでしょう」

…何のことはない。

これも、イレースなりの気遣いなのだろう。

とりあえず、何でも良いから少し気を逸らせ、と。

そうすれば、少しは気持ちも落ち着くだろう、と。

…イレースは鬼教官ではあるが、鬼ではない。

まぁ、単に「仕事しろよ」って意味なのかもしれないが。

イレースの言う通り、他に没頭することがあれば、少しは気も紛れるだろう。

そして。

「あの…学院長先生」

天音が、シルナに声をかけた。

「何か…僕に…手伝えることがあったら、何でも言ってくださいね」

「…」

「僕に出来ることなら…何でも手伝いますから」

「…天音君…それに、イレースちゃんも…」

気を遣わせている、と思ったのか、シルナは少し顔を上げた。

「…ありがとうね」

そして、ようやくほんの少しだけ、笑みを浮かべて言った。

…良かった。

笑うくらいの気力は、残っていたんだな。

「私は自分の仕事をしているだけです」

「そんな。気にしないでください」

イレースも、天音もそう言って。

俺とシルナを残して、学院長室を出ていった。

…それで。

俺はこの部屋で、シルナと二人きりになった訳だが…。

俺はシルナに、何か言葉をかけるべきなんだろう。

シルナが望んでいるのがどんな言葉なのか、俺には分からない。

だから、月並みなものになってしまうかもしれないが…。

…でも、何も言わないよりはマシだ。

「…なぁ、シルナ」

俺は、シルナにそう話しかけた。