神殺しのクロノスタシスⅣ

――――――…『サンクチュアリ』の、活動拠点。

そこには、何人もの聖魔騎士団の隊員達が、建物を取り囲むようにして立っていた。

虫一匹入れぬ、という強い意志を感じる。

俺達はシュニィに伴われ、特別に建物の中に入れてもらった。

すると、廊下の突き当たりの方に。

「…!学院長!」

「あぁ…シルナ・エインリーじゃないか」

「学院長先生…」

聖魔騎士団団長のアトラスと。

魔導部隊大隊長の、ジュリスとエリュティアがいた。

彼らだけは、立ち入りを制限されていないようだ。

まぁ、それもそうか。

何故か、魔法陣の発動条件に当て嵌まらなかったアトラス。

そして、いなくなった四人を探す為、懸命の探索魔法を続けるエリュティアは、この場にいなければならない存在だ。

それから、ジュリスがいるのは多分…。

…シルナの次に、神々についての知識に詳しい人物だから。

「…学院長…。わざわざ来てもらって済まない」

真っ先に、アトラスが駆け寄ってきた。

「大丈夫だよ。それより…大変なことになったね」

「…そうだな」

改めて考えたら、恐ろしいことだ。

魔導師排斥論者の活動拠点に、踏み込んできてみたら。

こんなとんでもないトラップが仕掛けられており。

まんまとそのトラップにかかって、四人の魔導師が姿を消したんだからな。

これは、只事ではない。

「…これが、奴らの狙いだったって訳だ」

と、ジュリスがアトラスの後ろに続いて、歩きながらそう言った。

「いかにも聖魔騎士団を刺激するような、過激な魔導師排斥運動を続けていたのも。全ては、俺達をこの罠に嵌める為だったんだろうよ」

「…そうかもしれないな」

って言うか、そうだろう。

聖魔騎士団は…いや、俺達は。

まんまと、その罠にかかってしまったのだ。

「…起きてしまったことは、もうどうしようもないよ」

かつてシュニィが言ったことを、今度はシルナが言った。

「まずは、その魔法陣と水晶玉を見てみよう」

「あ、魔法陣には入るなよ。お前も消されるぞ、恐らく」

「う、うん」

ジュリスに警告され、シルナは会議室と見られる、その突き当たりの部屋を、そうっと覗くように見た。

俺も、その後ろからシルナに続いた。

会議室の中には床一面に、赤い魔法陣が描かれ。

その奥で、神棚のように鎮座する水晶玉が、赤い輝きを放っていた。

…あれが…。

そう思った途端、俺はぞくっ、と背筋が冷たくなった。

「羽久…大丈夫?」

「…あぁ…」

ベリクリーデが、あれに近寄るなと言った意味が分かった。

神が入っているのは俺じゃなくて、「前の」俺だから。

この羽久・グラスフィアに与える影響は、ベリクリーデよりも少ないのだろうけど。

それでも、確かに感じる。

あれは…俺達が近寄ってはいけないものだ。

本能で、そう感じる。

「シルナ…。あれは…何なんだ?」

「…」

シルナに尋ねるも、シルナは無言だった。

分からないから、黙っている?

違う。

シルナの目には、確信に似た何かが映っていた。

それでも敢えて黙っているなら…。

それは、俺が口を挟んで良いことなのか…?