駅構内は、相変わらず、人人人で。
電光掲示板を見ても、全便運転見合わせ中の文字から動かない。
「シルナ、潰されるなよ」
「うぐぐ…。人に酔いそう…」
ヘーゼルを連れてこなくて良かった。
大の男二人でも、人に押し潰されそうだよ。
中には、さっきのおじさんみたいに、怒声や罵声も飛び交っていて。
もう、この中阿鼻叫喚。
それでも、シルナとはぐれないよう、何とか改札入り口近くまで辿り着いた。
何人か、無意識に突き飛ばしてしまったかもしれない。ごめん。
でも、俺とシルナも、負けず劣らず突き飛ばされてるから、イーブンだな。
戦場か?ここは。
とにかく、駅員の姿が見えた。
気の毒な駅員は、拡声器を手に、必死に叫んでいた。
「落ち着いてください」とか、「現在復旧作業中です」とか。
しかし、この群衆じゃあ、拡声器の声なんて、あっという間に掻き消されてしまっている。
それどころか、群衆に質問攻めにされて、たじたじになっている。
この状況じゃ、駅員を責めたくなるのは分かるが。
別に、駅員さんが悪い訳じゃないよなぁ?
怒りのぶつけ先がないから、駅員さんが槍玉に上がっちゃってるだけで。
って、皆も頭では分かってるんだろうが、どうしても他に八つ当たりする先がないから、駅員さんを的にしちゃうんだよな。
ますます、駅員さんが気の毒だ。
更に。
これから俺とシルナも、その気の毒な駅員さんを質問攻めにすることになるのだ。
本当ごめんな。
「ちょっと、あの済みません」
シルナが、もみくちゃにされつつある駅員さんに、声をかけた。
すると駅員さんは、困り果てたような、切羽詰まったような顔で答えた。
「申し訳ありません。現在、復旧の目処が立っておりませんので、今しばらくお待ちを…」
「え?あ、そうじゃなくて」
運転再開を急かす苦情だと思い込んでいたようで、駅員さんは条件反射のように言ったが。
そうじゃない。
急かしてるんじゃなくて、俺達はただ、事情を知りたいだけなのだ。
…ならば、奥の手を使うのみ。
俺は、上着の内ポケットに手を伸ばそうとしたが。
その前に、俺と同じことを考えていたシルナが、先にこう言った。
「私達は、聖魔騎士団魔導部隊の者です。この騒ぎを聞いて、王都セレーナから駆けつけてきました」
「えっ」
シルナの、このまさかの言葉に。
さすがの駅員さんもびっくり。
当然だ。ただの乗客だと思っていた者が、いきなり聖魔騎士団魔導部隊の名を出すのだから。
「せ、聖魔騎士団…の、方ですか?」
戸惑いながら聞き返す駅員さん。
「はい」
「え、えぇと…失礼ですが、身分証明書を見せてもらえますか?」
「あ、うん…。ん?」
シルナは、ごそごそと自分の上着のポケットを探っていたが。
…。
顔を青くして、こちらを振り向いた。
「…チョコ持ってくるのに夢中で、聖魔騎士団の証明書忘れちゃった」
「…馬鹿過ぎるだろ…」
常に持ち歩いてるもんだろうが。この馬鹿。
「でも、あの、エンブレムはつけてるよほら。聖魔騎士団のエンブレム」
と、シルナは上着の襟につけた、聖魔騎士団魔導部隊のエンブレムを見せたものの。
「…」
無言で、この渋い顔。
残念ながら、エンブレムだけでは証明にならないのだ。
聖魔騎士団のエンブレムは、よくレプリカが作られては、市場に出回ってるからな。
何なら、聖魔騎士団に憧れる子供向けに、玩具のエンブレム付きのお菓子が販売されている始末。
中には、本当に精巧に作られているレプリカもあって、このエンブレムが本物なのか、レプリカなのか、区別がつかないほど。
シルナは聖魔騎士団の人間なので、間違いなく本物のエンブレムなのだが。
そんなこと、事情を知らない駅員さんには、知ったことではない。
偽物のエンブレムをつけた、ただのコスプレおっさんにしか見えていないだろう。
実際、聖魔騎士の証明書を持ってなかったら、本当にただのおっさんだもんな。
電光掲示板を見ても、全便運転見合わせ中の文字から動かない。
「シルナ、潰されるなよ」
「うぐぐ…。人に酔いそう…」
ヘーゼルを連れてこなくて良かった。
大の男二人でも、人に押し潰されそうだよ。
中には、さっきのおじさんみたいに、怒声や罵声も飛び交っていて。
もう、この中阿鼻叫喚。
それでも、シルナとはぐれないよう、何とか改札入り口近くまで辿り着いた。
何人か、無意識に突き飛ばしてしまったかもしれない。ごめん。
でも、俺とシルナも、負けず劣らず突き飛ばされてるから、イーブンだな。
戦場か?ここは。
とにかく、駅員の姿が見えた。
気の毒な駅員は、拡声器を手に、必死に叫んでいた。
「落ち着いてください」とか、「現在復旧作業中です」とか。
しかし、この群衆じゃあ、拡声器の声なんて、あっという間に掻き消されてしまっている。
それどころか、群衆に質問攻めにされて、たじたじになっている。
この状況じゃ、駅員を責めたくなるのは分かるが。
別に、駅員さんが悪い訳じゃないよなぁ?
怒りのぶつけ先がないから、駅員さんが槍玉に上がっちゃってるだけで。
って、皆も頭では分かってるんだろうが、どうしても他に八つ当たりする先がないから、駅員さんを的にしちゃうんだよな。
ますます、駅員さんが気の毒だ。
更に。
これから俺とシルナも、その気の毒な駅員さんを質問攻めにすることになるのだ。
本当ごめんな。
「ちょっと、あの済みません」
シルナが、もみくちゃにされつつある駅員さんに、声をかけた。
すると駅員さんは、困り果てたような、切羽詰まったような顔で答えた。
「申し訳ありません。現在、復旧の目処が立っておりませんので、今しばらくお待ちを…」
「え?あ、そうじゃなくて」
運転再開を急かす苦情だと思い込んでいたようで、駅員さんは条件反射のように言ったが。
そうじゃない。
急かしてるんじゃなくて、俺達はただ、事情を知りたいだけなのだ。
…ならば、奥の手を使うのみ。
俺は、上着の内ポケットに手を伸ばそうとしたが。
その前に、俺と同じことを考えていたシルナが、先にこう言った。
「私達は、聖魔騎士団魔導部隊の者です。この騒ぎを聞いて、王都セレーナから駆けつけてきました」
「えっ」
シルナの、このまさかの言葉に。
さすがの駅員さんもびっくり。
当然だ。ただの乗客だと思っていた者が、いきなり聖魔騎士団魔導部隊の名を出すのだから。
「せ、聖魔騎士団…の、方ですか?」
戸惑いながら聞き返す駅員さん。
「はい」
「え、えぇと…失礼ですが、身分証明書を見せてもらえますか?」
「あ、うん…。ん?」
シルナは、ごそごそと自分の上着のポケットを探っていたが。
…。
顔を青くして、こちらを振り向いた。
「…チョコ持ってくるのに夢中で、聖魔騎士団の証明書忘れちゃった」
「…馬鹿過ぎるだろ…」
常に持ち歩いてるもんだろうが。この馬鹿。
「でも、あの、エンブレムはつけてるよほら。聖魔騎士団のエンブレム」
と、シルナは上着の襟につけた、聖魔騎士団魔導部隊のエンブレムを見せたものの。
「…」
無言で、この渋い顔。
残念ながら、エンブレムだけでは証明にならないのだ。
聖魔騎士団のエンブレムは、よくレプリカが作られては、市場に出回ってるからな。
何なら、聖魔騎士団に憧れる子供向けに、玩具のエンブレム付きのお菓子が販売されている始末。
中には、本当に精巧に作られているレプリカもあって、このエンブレムが本物なのか、レプリカなのか、区別がつかないほど。
シルナは聖魔騎士団の人間なので、間違いなく本物のエンブレムなのだが。
そんなこと、事情を知らない駅員さんには、知ったことではない。
偽物のエンブレムをつけた、ただのコスプレおっさんにしか見えていないだろう。
実際、聖魔騎士の証明書を持ってなかったら、本当にただのおっさんだもんな。


