ビルの中は、全くと言って良いほど人気がなく。

慌てて夜逃げでもしたかのように、あちこちにビラや新聞が散らばって、荒れ放題だった。

「誰もいないのか…?」

その可能性は有り得る。

強制捜査の通告を受け、捕まることを恐れて一斉に逃げ去った…。

逃げたところでどうにかなる訳じゃない、むしろ逃げたことで、余計罪が重くなるというのに。

逃げるってことは、咎められるような疚しいことをしました、と証言しているようなものだ。

疚しいことがないなら、堂々としていれば良いんだからな。

しかし…。

「何だか、お化け屋敷みたいだねー」

電灯の消えたビルの中で、ベリクリーデがポツリと言った。

お化け屋敷って、お前…。

「縁起の悪いことを言うんじゃない」

「だって、薄気味悪いし…。いかにも、何か仕掛けられてそうじゃない?」

「だから、縁起悪いこと言うなって…」

いつ何のトラップが発動しても良いよう、防御魔法の準備は常にしているが。

本当に何か仕掛けられていたら、俺達だって危ないんだぞ。

すると。

廊下の突き当たりに、広い会議室のような部屋を見つけた。

…マジで、何か仕掛けられてそうな部屋を見つけてしまったな。

ベリクリーデが、余計なことを言うからだな。

嫌なフラグを立てるから…。

しかし、アトラスは素知らぬ顔で、ずんずん進んでいく。

怖いもの知らずめ。

「何が待ち受けてるんですかね〜」

「あのなぁ…遊びに来た訳じゃねーんだぞ…?」

キュレムとルイーシュも、アトラスに続く。

若者達が恐れを物ともせず、立ち向かってるんだからな。

この中で一番年長の俺が、臆する訳にはいかない。

さて前に出よう、と思ったら。

「あてっ」

「は?」

カランカラン、と音がして、ベリクリーデの間抜けな声が聞こえた。

「どうした?」

振り向いて見ると、ベリクリーデが躓いて、べちゃっと床に手を着いていた。

「…何やってんの?」

「転んだ。空き缶で」

足元見て歩け。

「何をやってんだ、全く…」

「大丈夫ですか?」

俺と、近くを歩いていたクュルナまでもが、気を遣ってベリクリーデに声をかけた。

ごめんな、この間抜けのせいで。

「転けちゃったー」

「良いから、早く立て。怪我してないだろうな?」

「うん」

それは良かった。

ベリクリーデを立たせ、さて改めて…と、前を向いたとき。

アトラスは、広い会議室に足を踏み入れていた。