しかし、世の中には、そんな都合の良い人間は存在しないので。

結局は、俺が対処するしかないんだよな。

畜生。

「…あのな、ベリクリーデ」

「この後バク宙と鉄棒するんだよ」

「やめろ」

何故お前は初心者の癖に、そんな危険な技に取り組もうとするのだ。

本一冊で始めて良いことじゃないだろ。

素人の鉄棒とか、下手したら首の骨折れるぞ。

あと、鉄棒は男子の競技だろ。

そしてこの隊舎に、鉄棒はない。

その点では安心だが、こいつの存在自体がもう危険しか感じないから、安心は出来ない。

「良いかベリクリーデ。お前、今状況分かってるのか?」

「状況…?Y字バランスを極めようとしてる」

極めるな。

「お前の状況じゃねぇ。聖魔騎士団と、世間の状況だ」

そんな新体操なんて、呑気なことしてる場合じゃないだろ。

仮にも、聖魔騎士団魔導部隊大隊長の身分で。

新体操って。

『サンクチュアリ』の連中も、まさか憎き魔導部隊の大隊長が、今頃新体操に夢中になっているとは思ってないだろうな。

「シュニィから通達されただろ?明日、俺達は、任務に行かなきゃならないんだよ。覚えてるか?」

「うん」

「よし、じゃあ何の任務か言ってみろ」

「悪い人に、こりゃーっ!って言いに行く」

雑。

間違ってはないが、説明が雑。

「そうだけど。でもそうじゃないだろ…」

「どっち?」

…いや、まぁ。

一応合ってるから、今回は正解ってことにしておいてやるよ。

「俺達はな、『サンクチュアリ』っていう、魔導師排斥論者の組織の本拠地に乗り込むんだよ」

「…魔導師は遺跡…?」

前言撤回するわ。

絶対分かってない、こいつ。

お前も散々会議に参加しただろうが。分からずに聞いてたのか?

「魔導師が遺跡になるのか…。それは大変だ…」

お前の頭の中の方が、よっぽど大変だよ。

「世の中にはな、俺達魔導師が嫌いな奴もいるんだよ」

「えっ」

「そういう奴らが、思想を拗らせて、表立って魔導師を糾弾する。それを魔導師排斥論者って言うんだ。『サンクチュアリ』は、そんな魔導師排斥論者の集まりだ」

と、分かりやすく説明。

すると。

「…それは悪い人達だ」

悪い、って…。

別に魔導師排斥論者だからって、それ自体が悪い訳ではないと思う。

思想は自由だし、非魔導師にしてみれば、魔法なんてチート能力を使う者は、目障りに見えるだろうし。

悪いのは、その魔導師排斥論者が、暴力を使って世間に訴えかけようとしていること。

自分達の存在をアピールし、仲間を増やしたいなら、それは勝手にすれば良いが。

その手段を暴力に訴えるのは、それは違法だ。

「ジュリスは良い人なのに、そんなジュリスを悪く言う人達なんて、そんなの悪い人に決まってる」 

…はい?

何を言ってんだ、このベリクリーデさんは…。

「そんな悪い人には、こりゃーっ!って言ってこないとね。よし、私頑張るよジュリス」

「いや…。そうじゃないんだけど…」

お前の頭の中って、本当にどうなってんの?

さっきまで、「『サンクチュアリ』には裏があるのでは…」とか考えていたのに。

それ以上に俺は、ベリクリーデの頭の中を理解する方が、余程難解だよ。