「まぁ、無理もないよな…」

「…?何が、無理も、ないの?」

俺の呟きが聞こえたらしく、目の前にいた女が、こちらを振り向いた。

「アトラスの決定だよ。お前も聞いたろ?聖魔騎士団は、本格的に『サンクチュアリ』を取り締まることを決めたんだ」

「そう、なんだ」

そうなんだって、お前、会議に出席して聞いただろうが。

分かってなかったのか?

「まぁ、こうなるのは時間の問題だと思ってたよ」

「なん、で?」

「他の国ならいざ知らず、ルーデュニア聖王国は、魔導師に優しい国だからな」

そういう国にしたのだ。シルナ・エインリーが。

この国が自分達にとって、居心地の良い場所であるように。

それを責めはしない。こういう国があるから、俺達みたいな魔導師は安心して暮らせる。

国によっては、魔導師は「怪しげな呪い師」だとか、果ては「悪魔」や「魔女」などとまで呼ばれ、処刑されてもおかしくない。

いつの時代でも、どんな次元でも、そういうことはあった。

ルーデュニアほど魔導師に寛容な国は、むしろ珍しいくらいだ。

それもこれも、シルナ・エインリーの采配だ。

しかし、彼の盤石の体制に、亀裂が入ろうとしている。

まぁ、たまにはこういうこともあるだろう。

人の意志というものは、人の数だけあるものだから。

「…それにしても、妙に引っ掛かるんだよな…」

「?ひっ、かかる、って、何が?」

「魔導師排斥論を唱えるのは自由だが、何故あれほど、過激な行動に出るのか…」

おかしいだろう。いくらなんでも。

ルーデュニア聖王国が魔導師に優しい国であることは、誰から見ても明らかだ。

だから、露骨に魔導師排斥運動なんかしたら、誰からも眉をひそめられることは明白。

当然、このように聖魔騎士団からも睨まれる。

聞いた話だと奴ら、イーニシュフェルト魔導学院の校舎内にまで爆弾を仕掛け。

あわよくば、生徒を巻き込もうとしていたそうじゃないか。

そんな事件を起こしたら、それは最早運動ではなく、テロだ。

当たり前だが、殺人未遂の汚名を着せられ、逮捕される。

そんなことしても、世間の顰蹙を買うだけだ。

子供でも分かることだろう。

それなのに何故『サンクチュアリ』は、これほどまでに過激な行動に出る?