「…シュニィ。あれどうしたの?」

あれとは勿論、憤怒に燃えているアトラスのことである。

「え、えぇと…。聖魔騎士団が入手した、魔導部隊批判のビラに、私のことを…魔女だと罵った文章が書いてあって…それを読んで…」

「…あー…」

そりゃ怒るわ。

最愛の妻を魔女呼ばわりされたんじゃ、アトラスの血管が切れるのも当たり前だ。

「シュニィの何処にツノなんかあるって言うんだ。むしろ可愛さ以外に何があるんだ!?」

なんか言ってますよ、お宅の旦那。

「なぁ!学院長もそう思うだろう!?」

「えっ、私!?」

いきなり話を振られて、戸惑いまくるシルナ。

返答次第では、アトラスの大剣がシルナに襲いかかることになるだろう。

怖っ。

「そ、そ、そ、そうだね。シュニィちゃんは、今も昔も可愛いよねー…」

「そうだろう!俺もそう思う!!」

本日一番の大声で、アトラスが同意。

シュニィは例によって、顔を真っ赤にして俯いていた。

良かったなシルナ。返答を間違えずに済んで。

「それなのにあいつら、シュニィを侮辱して…絶対に許さん!全員ひっ捕らえて、改めてシュニィの前に立たせ、このあまりの神々しさに、頭を垂れて跪かせてやる!」

「…」

う、うん。

もしかして、それが動機?

強制捜査を決意した最大の理由は、嫁を侮辱されたからなのか?

「…そのビラを読んだとき、アトラス団長、ビラを引き千切ったかと思ったら、無言で大剣の柄を掴んで、怒りのあまりぶるぶる震えてて…」

「あまりの剣幕に、居合わせた隊員も生きた心地がしなかったそうだ」

エリュティアと無闇が、そっと教えてくれた。

…そうか。

それは…その隊員達も、不運だったな。

尻尾を盛大に踏まれた虎が、今にも襲いかかってくるんじゃないかと、気が気でなかったことだろう。

「…」

シュニィは何も言わずに、真っ赤になった顔を手で覆っていた。

気の毒。

「…何言ってるんだろうね、あの人…」

「危ない人だねー」

子供達もひそひそと、この反応。

しかし、言われている本人は、怒りのあまり耳に入ってない。

「と、と、とにかく。聖魔騎士団は、『サンクチュアリ』の本拠地は、掴んでるんだね?」

「あ、はい。探索魔法で…彼らの活動拠点を見つけたので…」

シルナの問いに、エリュティアが答えた。

「そ、そっか。相手は非魔導師の一般人だけど、でも相手は爆弾も持ってるから、気をつけ、」

「あぁ、勿論だ!シュニィを侮辱した奴らは、まとめて成敗してくれる!任せてくれ!」

いや、そうじゃない。

そうなんだけど。でもそうじゃない。

が、アトラスのあまりの気迫に、誰も何も言えなかった。

ただ、唯一口を開いたのは、勿論。

「…危ない人だね」

「うん」

今ばかりは、俺も令月達と同じ意見だった。