神殺しのクロノスタシスⅣ

それで。

「ヘーゼル、他の生徒は知らないか?南方都市から来てる生徒が、軒並み帰ってきてないんだ」

「あ、はい…。多分み、」

と、ヘーゼルが答えようとした瞬間。

生徒、の言葉を聞くなり、シルナがびくっとして、ヘーゼルの両肩を掴んだ。

「何処にいるの他の生徒!私の生徒は!?」

「ひっ」

まるで、鬼のような形相になっているシルナ。

この、馬鹿。

「やめろこの馬鹿!びびらせてどうする!」

俺は、強引にシルナをヘーゼルから引き離した。

ごめんな、小汚いおっさんに鬼気迫る顔で迫られて、びっくりしただろう。

「だって、だって!私の生徒が!」

「分かったから引っ込んでろ、アホかお前は」

怖がらせてどうするんだよ。ただでさえこのイレギュラーな状況なのに。

「ごめんな、ヘーゼル。シルナは気にしないで、知ってる範囲で良いから教えてくれないか」

「は、はい…。あの、でも…私もよく分からないんです。何せ、シャネオンに着いてから、ずっとこんな調子で…」

…あー…。

「知ってるクラスメイトがいないか、探しはしたんですけど…全然見つからなくて…。…ごめんなさい…」

「そうか、分かった。お前が悪いんじゃないからな」

この人混みだ。知り合いを探そうにも、身動きの一つも取れなかったのだろう。

無理もない。

「でも、始発から止まってるって聞いたので…。多分南方都市から来てる生徒は、ほとんどの人が、ここで足止めされてるんじゃないかと思います」

「…だろうな」

さっきは、たまたま運良くヘーゼルを見つけられたけど。

多分まだ、この群衆の中に、うちの生徒が紛れているはずだ。

とてもじゃないが、この群衆を掻き分けて、一人一人うちの生徒を見つけるのは無理だ。

もしくは、列車以外の方法を見つけようと、別の場所を彷徨いている可能性もある。

気の毒に。旅行用のスーツケースを持って、あたふたと王都行きの手段を見つけようとしている、生徒の姿を思い浮かべると。

シルナじゃないが、可哀想にもなってくるというもの。

お前ら、無理して急いで帰ってこなくて良いから。落ち着いて、安全な場所で待っててくれ。

「そもそも、何で列車止まってるんだ?」

俺は、ヘーゼルにそう尋ねたが。

「そ、それが…私にも…」

ヘーゼルはそう答えた。

と同時に、駅構内から、おじさんらしき人の怒声が聞こえた。

「何で列車が動かないんだ!理由を説明しろ!」と。

成程、群衆の皆さんも、ろくに説明を受けてないらしい。

それでさっきから、群衆が苛立ってるんだな。

列車が止まるなら止まるで、それなりの説明をしろよ、よ。

だが、説明しようにも、このパニック状態じゃ、構内放送も聞いてもらえるかどうか。

「一度も放送はなかったのか?」

「何度か、スピーカーから駅の人が喋ってたんですけど…。…その…周りの人の声がうるさくて、断片的にしか聞こえなくて…」

まぁ、この人混みじゃ、そうなるだろうな。

皆、気持ちは分かるが、ちょっと落ち着けよ。

「…でも」

と、ヘーゼルは言った。