神殺しのクロノスタシスⅣ

じゃ、いっちょ始めてみようか。

俺は、突き出した両手から、大量の糸玉を出現させた。

「…?何それ?どうするの?」

と、首を傾げる学院長。

まぁ見てなって。

「よっ」

「わっ!」

握っていた手のひらを開くと、大量の糸玉から、無数の透明な糸が放出された。

しゅるしゅるしゅる、と小さな音を立てて、糸がぐんぐん伸びていく。

「な、何それ…?」

「便利でしょ?この糸で、色んな隙間に入り込んで、異物を探して検知するんだよ」

「…!そんなこと出来るんだ?」

心外だなー。

そんなことも出来ないと思ってたの?

「これでも、元暗殺者だからねー。監視の目を潰したり、セキュリティを破壊する為に、狭い隙間を潜り抜けられる糸は、凄く便利なんだよ」

「ほぇ〜…。凄いね〜…」

「…良いな『八千歳』…。そんな器用なこと出来て…」

学院長は感心し、『八千代』は羨ましそうに俺を見ていた。

まー、『八千代』は力魔法しか使えないからねー。

こういう、索敵や偵察みたいなことは、苦手分野だよねー。

それ以外は、ほぼ全て俺より上なくらいなんだけど。

…それより。

「…ん?」

糸が、異物をキャッチした。

「ど、どうしたの?」

「何かあるね、ここ…」

俺の繰り出した糸の一本が、異物の存在を認めた。

何だろう?これ。

「えっ。ど、何処!?何処に何があるの?」

「ちょっと落ち着いてって。何処にあるかは分かっても、具体的に何があるのかまでは分からないんだよ。俺の糸に、目はついてないからね」

あくまでも、糸から伝わる感触で、それが何なのか判断するしかない。

でも、この感触って…。

…十中八九、間違いない。

とはいえ、実物を見て確認しないことには、確実なことは言えない。

「ちょっと、現場に行ってみよう」

「げ、現場って?」

「これは…六年生の教室だね。レッツゴー」

俺は、慌てる学院長と、比較的冷静な『八千代』と共に、現場である六年生の教室に向かった。

この教室の中に、ある。

「ど、何処っ、何処っ?何かトラップとか仕掛けられてるの!?」

本当にトラップが仕掛けられているなら、何も知らない生徒はあっという間に引っ掛かるだろうね。

それだけは、阻止しないとなぁ。

「ここだね」

俺は、教卓に一番近い、最前列ど真ん中の席。

その席の机の中に、手を突っ込んだ。

すると。

出てきたのは、四分の一ほど削れて丸くなった、市販の消しゴムだった。