神殺しのクロノスタシスⅣ

俺の中に、悪戯心が芽生えた。

じゃあ、ちょっと驚かせてみようかな。

「ツキナってば、知らないで雇ってたの?」

「ふぇ?うん」

「この人はなんと、三年生の先輩で、しかも三年生の中では知らない人はいない、超優秀な天才魔導師なんだよ」

俺は、いかにもな雰囲気を出して、大袈裟にそう言った。

『八千代』は、相変わらず何も分かっていない顔。

しかし、ツキナは。

「え、え、えぇーっ!!この人、先輩だったの!?」

うん。良い反応、良い反応。

ってかツキナ、本当に知らずにこき使ってたの?

さっきまで『八千代』に向かって、「隊員その2!この肥料を運べ!」とか言って命じて、重い堆肥の袋を担がせてたのに。

『八千代』は『八千代』で、年齢差とか、先輩後輩とか気にするタイプじゃないので、素直に言うこと聞いてたけど。

「しかも、そんな天才なの!?」

あー、上手いことハマってくれちゃって。

めっちゃ可愛くない?

「そう、天才なんだよ。古今東西、百の魔法を使える天才魔導師でね〜。その実力は、入学式でシルナ学院長が、『感服しました』って土下座したと言われてるくらいなんだ」

言うまでもないけど、嘘である。

『八千代』は確かに天才の部類に入る人種だけども、事実なのはそこだけ。

百の魔法どころか、一つの魔法しか使えないし。

俺達編入学生だから、そもそも入学式出てないし。

学院長も、イレースせんせーに怒られたとき以外に、土下座することはないし。

ほぼ全部、それこそさっきのツキナが言ってたような、作り話なんだけど。

しかしツキナは、何でも真に受けるので。

「そそそ、そんな大層な御方とも知らず、大変な失礼を申し上げましたぁぁ!」

土の上に膝をつき、全力土下座。

慌てっぷりが凄い。

あと可愛い。

「…?よく分かんないけど、良いよ」

『八千代』は、首を傾げながらそう言った。

そんなことだろうと思った。

「よ、良かった。怒られるかと思ったよ〜…」

「良かったねツキナ。許してもらえて」

ここぞとばかりに、よしよし、とツキナの頭を撫でてあげた。

再びガッツポーズ。

俺、恋の駆け引き超上手くな〜い?

これもう、ナジュせんせーに引けを取らないよ。

と、思っていたそのとき。

「…誰か来るよ」

『八千代』が、校舎の方を指差した。