「よ、よく分からないんですけど、何だか…きゃっ」

「おっと」

群衆に押されたヘーゼルが、手元に持っている自分の大きなスーツケースに躓いて、転びそうになったのを、俺が咄嗟に支えた。

危ない、危ない。

「ヘーゼル、とにかく一旦外に出よう。人に押されて、怪我してたんじゃつまらない」

「は、はい。ありがとうございます…」

俺はヘーゼルの大きなスーツケースを、代わりに持ってやりながら言った。

すると、シルナが。

「コラッ!もう誰!?うちの生徒を押すなんて!怒るよ!?」

一人で怒ってた。

何をやってんだ。

「ほら!お前も行くぞ。一旦外に出る」

「大丈夫だよヘーゼルちゃん!私が仇を討って…」

「討たんで良い!早く来い!」

俺は、片手にヘーゼルのスーツケース。

もう片方の手で、シルナの襟首を掴み。

ヘーゼルがついてきているか確認しながら、一旦駅の外に出た。

ここもここで、騒がしいが。

少なくとも突き飛ばされることはなかろう。

「ふぅ…。大丈夫か?ヘーゼル」

「は、はい」

やっと一息つけたな。

「シルナ、お前も、」

「全くもう、誰!?うちの生徒を突き飛ばすなんて!許さないんだから!」

まだ言ってるし。

もう良い。シルナは放っておくとして。

「災難だったな、ヘーゼル。リオンからここに着いたときは、もうこんな感じだったのか?」

俺は、ヘーゼルにスーツケースを返しながら言った。

「はい…。どうも、シャネオン発の列車は、始発から止まってるらしくて…。シャネオン駅に来るまで気づかなくて…。あの…ごめんなさい…」
 
「いや、お前が悪いんじゃないから」

リオンから遥々シャネオンまでやって来たのに、駅に着いた途端これじゃあ、ヘーゼルも驚いたことだろう。

「何とか改札を出て、運転が再開されたらすぐ乗ろうと思って、駅構内で待ってたんですけど…」

「…」

人に埋もれてしまって、危うく転びかねない状態になったってことか。

「分かった。でもこういうときは、無理して急がなくて良い。危ないから。事が落ち着くまで、安全なところで待ってろ」

「グラスフィア先生…」

「さっきも言ったろ?こんなことでつまらない怪我したんじゃ、馬鹿らしいぞ。列車の遅延なら仕方ない。最悪帰ってくるのは、明日でも良いんだから」

「…はい」

よし、宜しい。