神殺しのクロノスタシスⅣ

まぁ、神妙な顔して、不思議な方言で話すツキナも可愛いから。

俺は、別に良いんだけど。

「米なんてなー、食えんのは、盆と正月だけだったんだ」

「そうなんだ」

「そりゃあ苦労したもんだー。今のわけーもんは幸せさなー。今は米も何もかんも、捨てるくらいあるだろ。苦労を知らねーわけーもんばっかだぜよ〜」

「ごめんね、苦労知らなくて」

「ほーだほーだ。もっと苦労せにゃならんぜよ」

「分かった。もっと苦労する」

俺達、生まれたときから結構苦労してきた気がするんだけど。

まだ苦労したいの、『八千代』は?ドMか何か?

あと、そろそろ。

その、謎の方言と作り話も、きつくなってきたんじゃないの?

「そいでさー、春んなったら山に行ってよー…」

「…ねぇ、ツキナ」

「…何ぜよ?」

「それ、そろそろきつくなってない?」

「…」

あ、黙っちゃった。

さては、図星だな?

じゃあ、ちょっと軽く追撃を入れてみよう。

「現実見ようよ、現実。…大根の種蒔き、もう終わっちゃったよ?」

あんなに、苦労して畑を耕したにも関わらず。

誰一人、部活体験どころか。

見学に来る生徒もおらず。

イーニシュフェルト魔導学院園芸部は、今日一日を、畑耕し隊の三人だけで過ごした。

昼頃までは、「来ないな〜」って軽く喋ってたんだけど。

午後が来てからは、なんかヤバい空気を感じて。

仕方がないから、「先に種蒔き始めよっか」と種蒔きを始め。

種蒔いてる間に、一人でも見学する人が来てくれないかなぁ…と。

思っている間に、種蒔き終了。

肥料もしっかり混ぜ込んで、水もやって、大根の植え付け終了。

今体験に来られたとしても、何もやることないよ。

つまり、園芸部は、一人の生徒も来なかったということになるが。

そこのところ、ツキナは分かって、

「…ふぇ」

「あ」

ツキナの目に、ぶわっ、と涙が浮かんだ。

あーあ…。泣かしちゃったよ。

「だって〜!こんなに来ないなんて思わなかったんだもん〜っ!」

ツキナは半泣きでそう叫び。

あろうことか、『八千代』にしがみついた。

おい。『八千代』そこ代われ。

普通逆でしょ?俺じゃないの?何で?

「誰も園芸部に興味ないなんて〜!酷いよ〜!うぇーん!」

ツキナは、泣きじゃくりながら『八千代』にしがみついていた。

ツキナにしがみついてもらえるという、この上ない極上のご褒美を受けているというのに。

朴念仁の『八千代』は。

「…鼻水つけられてる…」

と、この反応。

マジで切実に、そこ代わってって。

「何で皆来てくれないんだ〜っ!うぉぉーん!」

「畑耕すの、大変だからじゃないかな?」

「うわぁぁん!隊員その2がマジレスしてくる〜っ!」

隊員その2、『八千代』は冷たいと思ったのか。

ツキナさん、今度は俺にしがみついてきた。

来たこれ。俺の時代。

心の中で、「いぃぃぃぃやっほぉぉぉぉ!」くらいのガッツポーズ。