そんな訳で。

数分後には、俺とシルナは、南方都市シャネオンの駅にいた。

え、どうやって行ったのかって?

空間魔法だよ。

シルナの空間魔法で、ここまでひとっ飛びだ。

生徒達もこの空間魔法で、一瞬で連れて帰れれば良いのだが。

残念ながら、シルナの空間魔法では、一度に転移させられる人数は限られる。

空間魔法のプロである、聖魔騎士団のルイーシュなら、話も違っていただろうが。

ったく、要注意区分に指定されている魔法を、こんな安易に…。

良い子は、絶対真似しちゃ駄目だぞ。

まぁ、真似出来るほど空間魔法に長けている魔導師は、そういないと思うが。

で、辿り着いたのは良いものの。

「うわっ、凄い人…!」

「…全くだ…」

シャネオンの駅は、溢れ返らんばかり人でごった返していた。

駅構内に入るのも大変そうだ。

下手して割って入ったら、押し潰されそう。

生徒が心配だな、この調子じゃ…。

上手いこと避難してくれれば良いのだが、このごった返した人混みの中に、巻き込まれていたら…。

突き飛ばされて、怪我をしててもおかしくない。

そうなったら、マジでシルナが発狂するぞ。

さすがは、王都に次ぐと言われている大都市。

人の数が尋常じゃない。

一見見たところ…うちの生徒は見当たらないが…。

しかし、シルナは。

「…はっ!あれは!」

「は?」

「ヘーゼルちゃーん!」

シルナは、群衆の中を掻き分けて、一人の少女を見つけた。

慌ててシルナについていったら、そこには。

「えっ…学院長先生…?それに…グラスフィア先生まで…」

イーニシュフェルト魔導学院の四年生、ヘーゼルという女子生徒を見つけた。

シルナの視力、どうなってんの。

この群衆の中で、自分の生徒を見つけるとは。

しかもヘーゼルは、学生寮に着いてから制服に着替えるつもりだったらしく。

今の彼女は、茶色のブラウスに花柄のスカートという、少女らしい、至って普通の私服なのに。

自分の生徒限定で、物凄く視力が良くなるらしい。

普段は老眼の癖にな。

「羽久が私に失礼なことを考えてる気がするけど、今はヘーゼルちゃんに会えたから良いや!」

あっそ。

「学院長先生…どうしてこんなところに…?」

ヘーゼルは、驚愕に目を見開いていた。

当然だろう。

王都セレーナにいるはずのシルナと俺が、何故ここにいるのか、と。

「ヘーゼルちゃん達が帰ってこないから、心配で迎えに来たんだよ!」

と、答えるシルナ。
 
これにはヘーゼルもきょとん。

「大丈夫?一体何があったの?」

そう尋ねるシルナに、ヘーゼルは戸惑いながら答えた。

「え、えぇと…。ごめんなさい…。私にも、よく分からなくて…」

何があったのかなんて、ヘーゼルの方が知りたい状態らしい。

とりあえず。

「お前が悪いんじゃないから、謝らなくて良いんだぞ」 

「は、はい…」

「ヘーゼル、お前確か出身は…」

「ヘーゼルちゃんは、リオンにお家があるんだよね!」

と、何故かヘーゼルではなく、シルナが答えた。

何でお前が答えるんだよ。

よくもまぁ、生徒の出身地まで知っているものだ。

それはともかく。

リオンと言えば、シャネオンより更に南方にある都市だ。

成程、彼女はリオンにある実家に帰省していて、リオンの駅からシャネオンにやって来て。

ここで王都行きの列車に乗り換えて、イーニシュフェルト魔導学院に戻ってくるつもりだったのだろう。