ざっくざっく、と耕すこと十数分。

「はい、そっちも〜。ふか〜く耕すのだ!大根は柔らか〜い土が好きなのだ!」

「はいはい」

ツキナは、畑の傍にちょんと座って、指示役に徹していた。

自分が鍬を扱うことは、とうとう諦めたらしい。

まぁ、すっ転んで怪我されても困るし?

こういう肉体労働は、俺達に任せてよ。

しかし、二人の『アメノミコト』元暗殺者が、こうして鍬を持って畑を耕しているとは…。

昔の同僚が見たら、目が点になるだろうなぁ。

人生分からないもんだ。

そして、捨てたものでもない。

…ところで。

「ねぇツキナ。これ、こうやって耕してるけどさぁ」

「何だ、隊員その1!」

俺、隊員その1なんだ。

どうも、畑耕し隊隊員その1、花曇すぐりです。

それはともかく。

「もう音を上げたのか?この軟弱者!」

一鍬目で、音を上げてすっ転んだ隊長には言われたくなかったなぁ。

「そうじゃなくて、これ、こうやって耕してるけど」

「それがどうした!」

「ちゃんと、体験入部しに来る人、いるの?」

「…」

「…」

しばしの沈黙が流れ、その間も変わらずざっくざっくと、黙々畑を耕す『八千代』の、鍬を動かす音だけが聞こえた。

『八千代』は農民なんだろうなぁ。

「…いるもん!」

しばしの沈黙の後、ツキナはそう叫んだ。

何だか自棄っぱちに聞こえるんだけど、本当に大丈夫なのかなー。

「本当にそんな人いるの?」

「い〜る〜もん!ちゃんと、畑を耕したくて、イーニシュフェルト魔導学院に来る人はいるもん!」

そういう人は、イーニシュフェルトじゃなくて、農業学校に行くんじゃないの?知らないけど。

国内最高峰の魔導師養成校にまで来て、大根の為に畑を耕してる生徒は…ツキナと俺達くらいじゃないかなぁ。

「ちなみに、去年の入部体験希望者は?何人だった?」

「…うっ…」

「何人?」

「…♪♪♪〜」

無言でそっぽを向き、下手くそな口笛を吹くツキナ。

成程、察した。

「だったら、こんなに頑張って耕す必要ないんじゃないかなぁ」

「あるもん!去年なんか…えぇと…うん、1億8千万人来たんだからね!入部希望者!」

人口の何割が来たの?それ。

「今年は2億人越えるもん!だから、いっぱい耕して、大根の種蒔きが出来るように準備しておくの!」

本当に2億人来たら、学校すし詰め状態だろうなぁ。

大根の種蒔きなんて、してる余裕なんてないと思うよ。

しかし。

「…2億人…!?」

本気にしている男が一人。

馬鹿だな〜…『八千代』…。

「それは大変だよ『八千歳』…。もっと本腰入れて耕さなきゃ…」

「そうだそうだ!隊員その2の言う通り!きびきび働けーっ!」

「…はいはい…」

言ってることが皆めちゃくちゃだけど。

やっぱり、ツキナが可愛いから良いや。

それに、一人も体験入部希望者が来なかったとしても、大根の種蒔きをすることに変わりはないし。

精々、大根が喜ぶよう、ふっかふかの土を用意しておこっか。