一方の、『八千代』はと言うと。

「…?」

このツキナの魅力が分からないらしく、首を傾げていた。

良かった。

『八千代』まで、ツキナの魅力に目覚めるようなことになったら。

白馬の王子権と秘密のお花畑権を巡って、『八千代』との熾烈な争いが待っているところだった。

『八千代』と勝負したら、俺負けちゃうもんなー。

「僕、これ真似したら良いの?」

「さぁ。やってみたら?」

『八千代』とは、争わずに済む方向で行きたい。

とりあえず。

「ツキナ〜。だいじょぶ〜?」

俺は畑にかがんで、すっ転んだまま動かないツキナの頭のてっぺんを、つんつん、とつついてみた。

反応あるかな?

すると。

「うぅ…だいじょばない…」

と、いう返事が返ってきた。

そっか。大丈夫そうだね。

「ツキナも、畑耕すの苦手なの?」

「何をぅ!」

ツキナは、ガバッ、と顔を上げた。

可愛い顔が、土まみれ。

持っていた手拭いで、ツキナの顔を拭いてあげることにした。

俺って紳士〜。

「おいどんは、代々農家の家系でさぁ。ちんまい童んときから、鍬持って畑ぇ耕したもんだぁ!」

謎の方言が出てるけど。

ちんまい童のときから、畑にすっ転んでたのかなぁ?

それはそれで、可愛いのでアリ。

ツキナって終始こんな調子で、よくこの間まで一人で園芸部出来てたなぁ。

「おめ様らも、おいどんを見習って、ちゃ〜んと畑耕さんかい!」

「はいはい。分かりましたよ〜っと」

「え、僕も転ぶの?」

お馬鹿なツキナと、同じくお馬鹿な『八千代』。

お馬鹿な二人に囲まれて、俺はツキナの代わりに、鍬を握った。

じゃあ、皆未経験のへっぴり腰農家ということで。

「やりますか〜」

見様見真似でも、まずは実行するとしよう。