しかし。

えっさほいさと畑を耕そうにも、鍬は二本しかない。

さて、誰と誰が耕す?

やっぱりここは、女の子であるツキナより、力だけは無駄にある『八千代』と、それから俺がやるべきなんだろうけど…。

…生憎。

「…僕、畑耕したことがない」

「俺もだよ」

俺達に、農業の経験はない。

当然畑の耕し方など、分かろうはずもない。

鍬を見たのも初めて。

結構えげつない形してるね、これ。人殺せそう。

「むむっ!なんてことだ…。貴様ら!畑耕し隊の自覚はあるのか!軟弱千万だぞ!」

ツキナ、隊長モードに突入。

めっちゃ可愛いんだけど。何これ?

「ごめん。でも、何となくやり方は分かるよ」

と、『八千代』が言った。

え。『八千代』やり方知ってるの?

農民出身?

「こうやって、地面に突き刺すんでしょ」

ザクッ、と。

『八千代』の鍬は、畑の土にめり込んだ。

…のは、良いものの。

あまりに力を入れて、深く突き刺してしまったらしく。

「…あ、抜けない」

…ばっ…かだなぁ…。

「お間抜けーっ!」

「いた」

畑を傷つけられたことに怒ったツキナが、じょうろの先っちょで『八千代』をコン、と叩いた。

痛くないでしょ、その程度。

「畑作りを何と心得るか!この不届き者共め〜っ!」

共って、それ俺も含まれてる?

「全くけしからん助っ人さんだ!すぐり君!ちょっと、その鍬貸して」

え、俺の?

「良いけど…はい」

「うむ!」

俺は、今しがた渡されたばかりの鍬を、ツキナに返した。

すると、ツキナは両手に鍬を構え、大きく振り上げた。

…おー…。

「これがお手本だ!よーく見ておけ貴様ら〜っ!」

「りょーかーい」

ツキナ隊長の指令に、敬礼しながら答えると。

ツキナは満足そうに頷き、そして。

「てやっ!」

渾身の一撃、とばかりにツキナが振り下ろした鍬は。

ぽすっ、と音を立てて、土に突き刺さり。

当人のツキナはと言うと。

あまりに勢いをつけ過ぎたのか、

「へ、あ、ふ」

一步、二歩と躓いたかと思ったら。

「ぶぇっ」

そのまま、顔面から畑にすっ転んだ。

ちーん。

「…」

こういうときのツキナを見てると。

あー、この子本当好きだなーって思う。