その翼を生やしたモノは
鉄柵から手を伸ばし
サリュの幼い首を、引き寄せた
− 牙が覗く唇を
彼女の唇ギリギリまで
近付ける
『…どうかな
俺、心が闇に包まれちゃって
だいぶ経つから…
どこもかしこも真っ黒かもしれない
化物だしね…』
サリュは
ひび割れた彼の唇をグイと押す
「でも血は あかいよ。」
睨み付けていた表情が素に戻る
困った犬の様な表情で
視線を泳がせると
それは慌てて、話を変えた
「ねえ。
これとか部屋ん中のとか、
全部君が作ったの?」
「うん」
「ねえ
この黒いローブ貸してもらえる?
服ボロボロになっちゃってるんだけど
これから急いで町に
帰らなきゃいけないんだ。」
「あげる。」
「え いいの?」
サリュはコクリと頷くと
奥からもう一枚
『こっちのがいい?』とでも言いたげに
白いローブを持って来る
「いや 黒がいいな。
だって俺ドラキュラアイスだしー」
拗ねた様な言い方に
サリュは初めて声をあげて笑った
「じゃあさ、
代わりにこれあげる。
ちゃんとオレが作ったやつ。」
そう言うと
首から銀色の羽根を模した
首飾りを外して
サリュの首に手をまわす
彼女はそれを制止した。
「え いや 何もしないよ?」
「ううん。ちがうの。
こっちがいい。星みたいな線、入ってる。」
視線は黒い手首にはめられた、
赤い石付きの腕輪に向られていた
「あーねー。これかあ。あげたいけど…。」
少し考えて
腰の小さな鞄から紙を出して
彼は何か書き始めた
そして小指から、青い石のついた指輪を外すとこう続ける
「腕輪の赤い石と同じ
ううん。
大きさは数倍あるかな。
オレもよく覚えてないんだけど
これからそれを手に入れる。
用事が済んでそれがいらなくなったら
君にそれをあげるよ。」


