たまたまなのか、誰かが気を利かせたのかは分からないけれど、幸い私たちがいる通路には誰も来ることがない。
それを良いことに、千紘は私が泣き止み落ち着くまでずっと抱きしめて、頭を撫でてくれていた。
しばらくして落ち着いたとき、嬉しいけど素直になった自分に恥ずかしくて、千紘の胸を軽く押して離れてから、頭に乗っていた手を退ける。
「ん?もういいのか?」
その、“ん?”が甘すぎて、私の耳がおかしくなってしまったのかと錯覚しそうになる。
さっきから鳴り止まない心臓の音は、くっついていた千紘にも伝わってしまっただろう。
だからこそ、落ち着いて考える余裕が出た私は素直になることができずに、可愛げのない反応をしてしまった。
「しょ、しょうがないんだから!千紘には私が必要だもんね!結婚してあげる」
ぷいっとそっぽを向きながら言ったのに、千紘は笑いをこらえないというように吹き出す。
「ふっ、可愛いやつ……」
「なっ!?」



