チラリと千紘を見ると、同じことを考えていたのか、苦笑いしていた。
そして、何かを思い出したかのようにバックのポケットに手を入れて、物を引っ張り出した。
「結乃……これ」
千紘はそう言って、少し汚れた野球ボールを私に差し出してくる。
咄嗟に手を出して受け取ってみると、そのボールには手書きで今日の日付とサインが書かれていた。
それを見て私はすぐにそのボールが何なのかを悟る。
「千紘、これは……!」
何気なく受け取ってしまったけれど、これはさすがに受け取れない。
そもそも、親とかに渡すやつなのでは……?
焦って千紘に返そうとするのに、千紘は受け取ってくれない。
今渡してきたこのボールは、今日のホームランボールだ。
それも、プロ初という記念付きの――。
そんな大切なもの、私が貰っていいはずがない。
「これは、千紘の記念で大切なものでしょう?さすがに――」
受け取れない……そう言おうとしたのに、千紘が遮ってくる。



