こんなに長い付き合いなのに――、いや、長い付き合いだから余計に、なのかもしれないけれど、ここで私が引いたら余計距離があいてしまうだけだ。
「いや。離れないし帰らない」
千紘の背中に顔をくっつけて、絶対に離すまいと力を込める。
試合後だけれどシャワーを浴びたのか、全く汗臭さはなく、スッキリとしたいい匂いがした。
そんな場違いな感想を思いながら、私はどうしたら千紘がこちらの言葉を聞いてくれるのかを考えていた。
「いいから離せよ」
壁を向いていたせいで、壁と私に挟まれている千紘はあまり身動きが取れない。
本気を出したら私の力など振り払えるのだろうけれど、そうはせずに最小限の力でもがいている。
まずは、周りが見えていない千紘を落ち着かせなければいけない。
「今日の千紘、力が入りすぎて空回りしてたね」
「……るせぇ」
とりあえず何か言わなければと口に出した言葉は、喧嘩を売るようなものになってしまった。



