普通なら降格させられてもおかしくない結果で、まだ一軍に居続けることができているということを……。
普段なら気づいているだろうけれど、自分のことでいっぱいいっぱいになっている今はどうか分からない。
監督はきっと千紘に期待しているから、こうやって声をかけるのだろうし、チャンスをくれているのだ。
悔しそうに俯く千紘の肩を慰めるように叩いて、監督は奥に戻って行った。
見送るように監督の背中を見ていた千紘は、その姿が見えなくなった瞬間、近くの壁に向かって左の拳を叩きつけた。
「くそっ……」
私の前では、滅多にそんな姿を見せないのに――。
だけど、ここで見て見ぬふりをするためにここに来たのではない。
幸い、千紘は私が入っても大丈夫な場所にいる。
だから私は、壁に向かって悔しがっている千紘に近づいて後ろからぎゅっと抱きしめた。
周りが全く見えていないせいで、私が近づいたことにも気が付かなかったのだろう。



