「肩の力を抜いて、いつも通り――」



私はたぶん、千紘以上にドキドキしながらその打席を見つめた。


力の入った1球目は、千紘の振ったバットの下をボールが走り抜けてパァンとミットの気持ちいい音が響く。



「ストライク!」



主審の手が上がり判定を告げる。



「だめ、もっと力を抜いて」



千紘には聞こえないことがわかっていても、思わず呟いてしまう。


2球目は見送って、外にはずれたボール球。


その後、ファウルで3球粘ったけれど、最後は空振りの三振でアウトになった。


悔しそうにベンチに戻ってくる千紘が見える。


その次の打席にたった選手もアウトになり、チャンスは点に繋げることができなかった。


千紘が出たのは、あの打席だけ。

それも、ピッチャーの代打だったので次の守備は出なかった。


結果、その後の点差は動かなくて試合は負けてしまった。

千紘のせいではないけれど、チャンスを掴めなかった千紘は悔しがっているだろう。