図書室は本校舎にもあるし、貯蔵量も自習スペース等の設備もそっちの方が上だ。

だからわざわざこんな所にまで足を運ぶ人なんてそうそういない。



「……」

「……」



ただ1人を除いては。

窓側の一番陽当たりのいい席で、その女子は今日も文庫本を読んでいる。


音を立てて入ってきたというのに、チラリとこちらを見ようともしない。

彼女の瞳は、本の文字をなぞるのに夢中だ。



分厚い史記の数々が並んだ本棚を通り抜け、彼女の斜め前の椅子を引いた。


旧校舎の図書室は狭い造りになっていて、テーブルは2つしか用意がない。

もう片方は陽当たりが悪いから、いつも彼女と2人でこのテーブルを使っている。




椅子を引く、座る。
窓の外を見る、彼女に視線を移す。


彼女と目が合ったことは一度もない。

きっと、今日も合わない。



俺にとってそれはとても居心地が良くて、この空間は穏やかで。