‥空‥




アタシの名前を呟いて、新はただ黙ってアタシを抱きしめた。




アタシが悲しんでると思ったの?



寂しがってると思ったの?




悲しくも寂しくもない。




アタシはムカついているんだよ。


アタシを無視する両親に。




そう‥ムカついてるの‥




ムカついて腹が立っているのに‥




なぜか目から涙が溢れた。




人間って‥




不思議な生き物だね。





でもアタシ、本当に生きてるのかな?




怖い。




こんなに怖い事に今まで気がつかなかった‥




そう‥



気がつくと交差点に立っていた。



事故にあい一ヶ月も意識がなかった事さえ知らない。



新のおかしな態度。

アタシを見る怯えた目。



そして頭の中に浮かぶ赤い車。




初めから‥何か




おかしかったんだ。




全て‥おかしかった。




どうして気付かなかったのだろう‥




初冬の暖かな陽射しの中で




アタシは気付いた‥




あるはずの‥




《影》がない事に。




新にはある《影》が。




アタシには‥




「アタシ‥影がない‥」