「ここにはもう来ちゃダメって言ったよね?
なんで来たの」
「それは…」
あなたのことが気になってしまったから。
なんて、とてもじゃないけど言えない。
「従順でいい子だと思ってたのに。
聞き分けの悪い子だったなんて、知らなかった」
響く言葉は、その声は、どこまでも冷たい。
…察する。
この道はきっと、裏社会に住む人の溜まり場に繋がっていて、彼もそっち側の人間なんだと。
来なければ、良かった。
今更後悔しても遅いのに。
「俺があっち側の人間だって分かっちゃったみたいだね」
「……」
知らない方がいいことがあるとするならば、まさにコレだと思った。
昨日だけの夢物語として記憶に刻んでいれば、良かった話なのに。
「ここが裏と繋がっていることと俺の正体、誰にも知られちゃいけないんだよね。
…だから、君は一生俺から逃げられない。可哀想にね」
可哀想、だなんて全く思っていない表情で告げて、彼の瞳が気だるげに私を捉えた。
「逃げられないって…、いや…です…」
「君に拒否権はないよ。ここに来たのが悪いんだから」
「…っ」
「夜も遅いし、今日のところは帰って。
ーー明日からは逃がさないからね」
赤い瞳が光に反射して、鋭く輝く。
踏み込んではいけないところに、入ってしまったみたい。