事実、紫杏くんから滲み出る威圧的な雰囲気は、恐ろしいものであるから。

それこそ、逆らえないような。

ーーでも。

ここで、怖いとは違うドキドキが加速しているのは、どうして。

後ろからかかる吐息に意識が全部向いてしまって、
微かに首に触れた指に、ピクッと過剰に反応してしまう。

髪から離れたしまった手が惜しい…と思うのは、どうして。




「…ごめん、ちょっと怖かったでしょ」




空気が和らぐ。

過剰に反応してしまったためか、勘違いさせてしまったみたい。

怖いなんて感情は、なかった。

全然、全くもって。



「怖くないよ」



くるり、と反転して紫杏くんの目を見つめる。

恐ろしいほど綺麗な赤い瞳は、無機質だった。



「紫杏くんは、怖くない」



再度、告げる。

危ない人、とは思っても怖いとは思わない。

もしろ、もっと紫杏くんのことを知りたいなって思う一方で。