耳に吹きかかる息、右下を見れば紫杏君の顔。

正面に座っているおばあさんに、温かい目で見られる。

気が動転して、視線がさまよってしまう。

恥ずかしさと動揺と得体の知れないドキドキが入り混じって、ぐるぐると頭が回る。

色んな意味で限界だけれど…。

ぐったりとした紫杏くんの様子を見る限り、人酔いしちゃったみたいで。

これは私が我慢するしかないみたい。

…なんとか、ギリギリ平常を保ちながら、耐えている。

と、電車内にアナウンスが流れてくる。

次が、降りる駅みたいだ。

多方からの視線と紫杏くんとの距離感を乗り越えて、電車から出ると。



「紫杏くん、大丈夫?」

「大丈夫。肩借りちゃってごめんね」

「ううん、全然。大丈夫なら良かった…」




ふぅ…と、安堵の息を吐く。

駅の出口まで歩いて、隅に寄った紫杏くん。

それから。



「花澄ちゃん、今携帯持ってる?」

「持ってるよ」

「…ちょうど良かった。連絡先交換しない?」

「…ええと…、え?」



唐突に。

QRコードの画面を開いて携帯を差し出される。



「QRコードの読み込み方はわかる?」

「…っうん」



一拍遅れて頷く。

…と、笑みを浮かべながら携帯を差し出す紫杏くん。

その笑顔に圧を感じて、急いで携帯を取り出して、QRコードを読み取る。