からかうように笑う紫杏くんを冷えた目でかわす黒瀬くん。

やり取りにこなれてる感がして、付き合いが長いんだろうなって思う。



「受験勉強頑張ってくださいね」

「言われなくても」



東郷さんの言葉に素っ気なく返した後、
バタンと部屋の扉を閉めて出て行く黒瀬くん。

クールな人なのかな…。



「花澄ちゃんもそろそろ帰った方がいい時間じゃない?お昼ご飯とか大丈夫?」

「え……」



もうそんな時間…?



「今、12時ちょっと前だよ。帰るなら送ってく」



ーーその言葉に甘えて、送っていってもらうことにした私。


紫杏くんに対する警戒心も完全ではないが、薄れてきているのだけれど。

どうしても気がかりなことがある。

それは、再度この入り口に来てしまった日。

紫杏くんのあの冷徹な表情と口調から少し怒りが感じられて。

今も内心、ここに来たことを許してくれていないのかなって。

それがとても、気になる。

外に出て少し歩くと聞こえてくる、鈍い音や悲鳴。

怖くて聞きなれないその音に、体が少し震えてしまう。



「やっぱり外は怖いよね」

「…ごめんなさい」

「謝らないの。
この道ちょっと行ったら良くなるから、そこまで我慢できる?」

「うん…」



ギュッと紫杏くんの服の裾にしがみつきながら歩く。

…と、少しだけ紫杏くんがビクッとした気がした。