鞄を持ったまま、走る。
歩く時間さえ惜しい。
街を行き行く人が振り返っても気にしない。
溜まり場にいるか、家にいるかわからない。
紫杏くんがどこにいるかもわかないけれど、溜まり場に向かって走る。
もしいなかったとしたら、大雅くんたちに聞けばわかるはずだから。
「……っ」
溜まり場の前の細い通路に入る。
初めて紫杏くんと会ったところ。
あの瞳に囚われたところ。
大雅くんや紫杏くんがしたように、隠し扉を開ける。
監視対象じゃなくなった私、もう部外者だから入っちゃいけないのかもしれない。
それでも構わず一歩を踏み出す。