「へー、おもしろ。完全にダブルデートじゃん。紫杏かわいそ」
笑いながら黒瀬が言う。
刺し殺そうか、本気で迷った。
「黒瀬くん、煽らない。
でも、その男性知ってるかもしれません」
「マジか。詳しく」
「土曜日。花澄さんが、同級生らしい好青年と仲良さそうに歩いてたんです」
「もうそれできてるんじゃねぇの。いい感じじゃん」
「かもしれませんね。真相はわかりませんが」
「……」
三人の視線が俺に向く。
苛立ちは消えた。
綺麗さっぱりと。
代わりに、また別の感情が生まれる。
…花澄ちゃんに出会って何度も経験してきた感情。
一つ、用が出来てしまった。
「…はあ。俺、出かけてくる」
皆黙って俺を見届ける。
一つ、花澄ちゃんに伝えなくてはならないことができてしまった。