「紫杏くん、ここまでご苦労様。忙しい中呼び出して申し訳ない」
「いえ、大丈夫です。それより、用件を伺っても」
目の前にいる男ーー、すなわち、この街のトップに君臨する男に静かに微笑む。
「…そんな焦らなくとも。まず、敬語をやめてくれないか。実際立場は君の方が上だろう」
「それはどうでしょうね」
見方を変えれば俺の方が立場が上で、また違う角度で見ればこの人、が上。
なんとも複雑な関係。
表の権力者、裏の支配者、たったそれだけの違いだというのに。
「いや、君たちが、か…。この街の番人、狂犬、支配者…」
黒瀬、東郷、大雅、そして俺が現状この街ではトップだと言われている。
とはいえ、この街ではない、裏社会全てを含めたトップ層の人物もこの街にいるわけで。
誰がトップなのか、詳しくは分からない。
この人の言うように俺たちかもしれなければ、この人の可能性だってある。
曖昧だからこそ、治安も良くなく混沌としているのだろう。
秩序のちの字もない。