「最近、染野が死ぬほど元気ないんだけど。心当たりない?」
目が合ったついで、なんとでもないというように聞いてくる黒瀬くん。
紫杏くんが、元気ない…?
なんてもちろん。
「ないかな」
というよりか、元気がないこと自体知らなかった。
そのくらい、最近は紫杏くんを避けてしまってる。
「…へー、てっきり倉沢サンと何かあったとでも思ってたんだけど。俺の思い違いか」
どこか探るような視線で私を見る黒瀬くん。
ーー居た堪れない視線。
「じゃ。俺はそれを聞きたかっただけだから」
カウンター席から離れて、階段へと去っていく黒瀬くん。
どうやら、これを聞くためだけに来たそうだった。
「…全く。黒瀬くんも自由人ですよね。
というより、礼儀がなってないのか」
はぁ…と頭を抱える東郷さんは、保護者みたい。
二人の関係性が少し、見えてきた。
「まあでも、紫杏くんに元気がないのは本当のことなんですよ」
「そう、なんですか」
「ええ。なので……、早めに和解してあげてくださいね」
二言。
そう言った後、紅茶を啜る東郷さん。
「ーー弱みって変わることもあるんですよね」
ボソッと呟いた東郷さんの声は、誰にも届かなかった。