「…俺の上着、被ってて。こんな街なんて見たくないでしょ」



着ていた黒色の上着を渡される。

わけもなく握り締めてると、体が宙に浮かんだ。

…首と足に回った手。

染野くんを真下から見つめるこのアングル。

…お姫様抱っこ、されてる…⁉︎



「怖がったり驚いたり。花澄ちゃんって表情がコロコロ変わるよね」

「それは…、だって…」



本当に怖いしビックリしちゃうからであって…。

染野くんから顔を隠すように、上着を顔に被せてると。



「そう、そのまま被ってて」



歩き出したのがわかる。

一歩踏み入れた瞬間、その場の雰囲気が変わった。

冷たくて、緊迫感のある空気が全身で感じ取れてしまう。

下品な笑い声、怒鳴り声、やらしい会話。

全てが耳に入ってしまう。

…しばらく歩いてると、動きが止まる。



「…もう、上着被らなくていいよ」



視界が開けた瞬間入ってきたのは、モノトーンで落ち着いた喫茶店。

“close”と書かれた看板がドアにかかっている。

どこでもありそうなオシャレな雰囲気の喫茶店に少し驚く。