その瞳に囚われて


「仕事も放り出してきちゃった。俺、怒られちゃうかな」



なんとでもないように紫杏くんの言葉。

仕事って、女の人関係なのかな。

裏社会のことだから、十分に有り得てしまう。


それとも、仕事じゃなくてあの女の人とまだ会ってたんじゃないかな。

そしたら、悪いことをしちゃったかな…。




「今日の花澄ちゃん、やけに元気ないね。
どうしたの?」



数日間会えないなら、全く、1秒でも会わないほうが良かったのかもしれない。

…今になってそう思ってしまうのは。

私の心が弱いせい。



「…監視っていつまで続くの」

「いつまでって、ずっとだけど」

「監視人って、変えることはできないの…?」



涙ぐみそうになった声をなんとかごまかして、俯く。

微に見えた紫杏くんの顔は、歪んでいた。

ーーしばし訪れる沈黙。

それは、今までで一番重苦しくて、痛かった。



「…ごめんね。やっぱり、なんでもない」

「花澄ちゃん、」

「興味本位で聞いただけ、だから…」



紫杏くんの言葉を遮る。

失恋を背負うのは痛い。

けれど、繋がりを切るのはもっと怖くて痛くて、それこそ取り返しのつかないような気がして。

前言撤回、なんでもないというように振る舞った。