***



ここは、どこ…?

見慣れない倉庫の中に、横たわっている私。

頭がボーッとしていて、上手く働かない。

…確か、散歩をしていて、人通りの少ない道に入って、誰かにいきなり腕を掴まれて。

それからーー記憶にない。

…ということはつまり、誘拐?

嫌な考えが頭をよぎった。



「おお、やっと目を覚ましたか。
睡眠ガスがよく効いててな、死んじまったかと思ったぜ」

「…っな………」




バッと起き上がって、声の主を見る。

なんで私を連れてきたの、と聞きたかったけれど、声が出ない。

男の人が、面白そうに笑った。



「恨むなら染野を恨め。
アイツが恨みを買わなければ良かったことだ」

「染…野…?」



紫杏くんのこと…?



「そう、恋人の染野紫杏くんを恨みな」

「違っ、私、紫杏くんと恋人じゃないです…」

「あ"?嘘つけ、お前は染野の大切なオンナだって噂は出回ってる」



どこからから取り出したナイフを首元に近づけられる。

…こんな不運な日、もうない気がする。

紫杏くんのキス現場を見ちゃうし、誘拐されて、挙句、失恋したばっかなのに紫杏くんの恋人と勘違いされるなんて。