歩くペースが落ちて、足が止まる。

呆然と、ただただその光景を見つめる。



「花澄、どうかした?」

「……」

「おーい。大丈夫?」

「………」



和葉ちゃんが私の視線の先を辿った後、あたふたしだす。

通行人が、数人こちらを見ている。

あちら側から見えないだろう、私の視線の先には。

グイッと女の人が、紫杏くんの首元に手をやって、まるでキスするかのような距離に縮まる。

女の人の服装から見るに、きっとデート中なのかな…。

遠目からでは、二人がどのような表情をしているかは読み取れないけれど。

ズキっと、深く何かが突き刺さる感覚がした。

影が重なる。

キスする寸前の距離で、視界が黒く覆われる。



「……花澄。何かの間違えかもしれないし、見ないほうがいい」

「…でもっ、」

「でもじゃない。見ない方が、絶対いい」



体が反転する。

同時に光が視界に舞い込んできて、目がチカチカする。

ガシッと強く手を握られて、連れてくれるがままに帰り道を辿る。



叶わない恋は、たくさんあるだろう。

それでも、恋して良かったと思えるならまだいいのかもしれない。

けれど、違った。

恋する相手を間違えてしまった…?

恋した相手は裏社会の危険人物。

特殊な関係で、恋愛とは無縁のような監視対象という肩書き。

しまいに時々耳にしていた、「女遊び」という言葉。

初めて会った時から女慣れしている様子だった彼。

どう考えたって傷つくだけの恋なのに、落ちてしまった。

どうやら自覚した後に、砕け散ってしまったみたい。