1個だけ、なんでも…。
もちろん聞きたいことは、たくさんあるんだけれど。
「…じゃあ、名前教えてもらっていいですか」
「は?」
何を言ってるの?とでも言うように私を見る彼。
…だって、名前知りたいんだもん。
呼び方わからないし、不便だし…、でも一番の理由はわからない。
この人のことを知りたいなって、どうしてか思うんだ。
「名前って…、フッ、花澄ちゃんバカでしょ。一周回って可愛いね」
堪えきれなくなったようにクスクス笑ってくる彼。
真面目に聞いてるのに、ひどい。
「あはは、ごめんね。つい」
ポンポン自然に私の頭を撫でる彼。
「俺の名前は染野紫杏(そめのしあん)。覚えておいてね」
赤い瞳が、私の目を覗き込む。
その張り詰められた空気感に呑まれて、目が逸らせない。
神秘的なその目には、誰しもが囚われてしまうのだろう。
数秒間、見つめあった状態が続いて、だんだん恥ずかしくなってしまう。