イケメン保健室・病弱少女の恋愛相談

「保健室にサボりはくるな! 勉強するために高校に来たのだろうが、ほら教室に戻れ」

 いかにも健康そうな男子生徒が保健室から追い出されていた。舌打ちをしながら彼らは廊下を音を立てて歩き帰って行く。大きくため息をついた白衣姿の先生はそのとき私を見つけて声をかけた。

「なんだ、大森」
「あ、これ昨日の体操着、返そうと思って。ありがとうございました」
「なんだ、別に急ぎじゃなかったのにな」
「じゃあ……」
「待て、ちょっと来い」

 先生は私の腕をおもむろにつかんで引き寄せてそっと頬にふれて悲しげな目をした。

「お前は……ちょっと寄って行け」

 サボりは許さないって言った先生が、私を放さなかった。保健室の中で椅子に座らされた、思い当たらない私に先生は体温計を差し出す。

「サボり目的は許さないが、体調不良は逃さないんだ。ほら熱測ってみろ」
「そんな、熱なんか……」
「大分熱いぞ、自覚はないか?」

 多少体調は悪いとは思っていた。先生に促されるままに体温計をシャツのなかに入れ絵鳴るのを待った。その間に先生は空いたベッドを整える、私のための準備をしているかのように。
 電子音が鳴って取り出した体温計を先生は私が見る前に取り上げる。先生は今まででひときわ大きなため息をついて、私にディスプレイ見るように差し出した。

「こんなに熱があるのに学校になんか来るな」

 体温計の数値はもうすぐ39度に差し掛かるところ。高熱なのは間違いない。

「どうして先生気がついたの?」
「お前こそどうしてわからないんだ。顔色見ただけでわかるよ、赤い顔して……今日は帰るか? いや、一人で歩かせたら危ないな。家に連絡して迎えに来てもらうか」
「家は誰もいないよ、朝起きたらもういなかった」
「こんなお前を放っておいて?」
「昔からそうだもん、私よりも仕事優先」
「大森……」

 同情でもしたのだろうか、先生はそっと私の頬を両手で包む。温かいはずの先生の両手が冷たくて気持ちがよかった。

「でもね、先生……私、先生に会いたかったの」

 私の言葉に先生は少し驚いた顔をする。けれどすぐに表情は穏やかになり、一言そうか、と言って笑った。