イケメン保健室・病弱少女の恋愛相談

「少しは食べないか?」
「嫌、嫌だよ……先生、太りたくない」

 昼食だと言って先生がサンドイッチを購買で買ってきてくれた。野菜サンドはカロリーも低い。そんなことは知っているのに、怖くてずっと食べられない。先生はそんな私を叱りもせずじっと見つめて、二切れあった野菜サンドを一切れずつにした。

「半分だ、これくらいなら太ることもない」
「本当?」
「俺が半分食べるから大丈夫だよ、何も怖いことはない」

 そう言って先生は優しく笑って、私の頬を撫でてくれた。
 放課後は濡れた制服を持って、借りた体操着にジャージを重ねて帰宅する。相変わらすの共働きの両親は帰ってくるのは遅く、体操着を洗って乾かしている間に台所のテーブルに置いてある炒飯とサラダを見る。以前は自分で作って食べなさいと言っていた母だったが、私の入院以後はまれに食事を用意して仕事に行くことがある。でも昨日の過食を思いだして、またスイッチが入るように食べるのは嫌だったし、食べてしまったらきっと吐けないに決まっているし……悩んだ挙げ句、野菜サラダだけ食べることにする。ドレッシングも怖いからノンカロリーのドレッシングをかけて口にしたが、腹の中に入ったサラダが重くて、最後まで食べきることが出来なかった。どうしても食べ物が、怖くてたまらない。

 ***

「はあ……」

 その日の晩は眠れない夜を過ごした。やけに寒気がして震えて眠れず、腹部も違和感があって気持ち悪い。学校のことを考えれば、あの上級生達にまた何かされたらどうしようかと心配で……。
 少しだけ明け方まどろんだ。目覚まし時計の音で目を覚ますと六時半だと言うのにもう両親はともに出勤している。私はいつも一人だ、両親にとってもきっとそんなに大切ではない。家庭より仕事が楽しいのならどうして二人は結婚なんかしたのだろう。
 乾いた体操着を出来るだけ綺麗に畳んでリュックサックにしまう。

「……先生」

 この誰もない家に一人きりは慣れたはずなのに酷く寂しい。無性に先生に会いたくて仕方が無かった。じわりと浮かぶ涙を堪えて、制服に着替えて家を出ることにする。
 数駅前から歩いて行こうとは思っていたのだが、駅に向かう途中で疲れてしまって、今日は学校の最寄り駅で電車を降りることにした。
 やっぱり今日は体調が悪い気がする、やけに息が切れるし眩暈も幾度となく繰り返し、何より手指が凍えるように冷えている。甘いコーヒーじゃない温かい飲みものは売り切れになっていたりと季節的に自販機では見かけなかった。 
 昇降口から教室に向かう前に保健室に向かうことにした。下を向いて歩いていたら突然先生の大きな声がする。