いつの間にか眠っていたようだ。うっすらとした意識の中、体に毛布が掛けられていることに気がついた。そしてベッドの横には凛とした姿勢で椅子に腰掛ける執事。

「ようやく目が覚めましたか?」

「……」

 何も言わずに顔を背ければ執事がグイッと顔を寄せて問いかけてきた。

「私のことは嫌いですか?」

「……」

「もう一度聞きます。私のことは嫌いですか?」

 何度も顔を背けるとぐいっと顎を掴まれ囚われてしまった。見つめられると言うよりも睨まれるといった表現の方が適切なこの状況で、執事の冷たい瞳が私を捉えて離さない。

「えっと、その」

「実は。……私も子供はあまり好きじゃありません」

「な!」

「ですが」

 執事はスッと私の手を取り膝をつく。

「これから私は、眞理様と家族のように共に時間を過ごし、いつまでも側にいることを、ここに誓います」

「かぞく?」

「はい」

「執事が?」

「私、樋口貴司と申します。これからよろしくお願いします、眞理様」

「樋口、さん?」

「はい」

「家族?」

「はい」

 家族。私が、執事と。
 普通じゃない。でも、普通じゃないのにはもう慣れっこだ。

「か……ぞくなら」

 言いたい言葉が上手く出てこない。言うのが怖い。期待してしまう自分と期待してはいけないという自分。

「ずっと、側にいますよ」

「た、誕生日も? クリスマスも?」

「貴女が望むなら」

 私の前にひざまづく樋口。それはまるでどこかの映画のワンシーンのような光景だった。

「お、お祝いにケーキも……買ってくれる?」

「勿論です。なんなら」

 お作りしましょうか?と樋口。

「作れるの?」

「勿論です」

「……楽しみにしてる」

「はい、畏まりました。眞理様」

 こうして私と執事のちょっと変わった日常がはじまった。