「ちょっと!明里!いつまで横向いてんの!」



凛の焦った声が聞こえてハッと我に帰る



「凛、どうしたの?」



「どうしたの?じゃないでしょ、ホームルーム終わったよ?1時間目移動教室でしょうが!」



「え、もう?やばい!ごめん!」



「大丈夫だけど、何で誰もいない席見つめてたの?」



凛にそう言われて気がついた

私は初めてあんなに人のことを無意識に見ていたかもしれない

藤堂くんが席を立ったことも気づかないほど夢中で




午前中の授業が終わって唯一癒しのご飯の時間が来た



でも今日はお弁当を持ってきてない



正確に言えば持ってこなかったんだ



私は4兄弟の長女として生まれた


物心ついた頃にはもう妹がいていつも面倒を見ていた


欲しいものは全部妹にあげて、妹の代わりに叱られて


でも妹が可愛いから苦じゃなかった


むしろ嬉しかった


姉として妹の役に立ててるって実感できたから


だから今日の朝、妹が慌てて家を出ようとしてお弁当をひっくり返した時私は迷わず自分のお弁当を渡した


それで妹が喜んでくれるから



そのおかげで今私は食堂という戦場に来る羽目になっているんだけど…



今日は何だかいつもより人が多い気がする…



何でだろうと不思議に思いながらも人に押し流されないように券売機にたどり着いた



そこでやっとわかった


「藤堂くん?」



券売機を睨んでいる彼がいたから



睨んでてもかっこいい



ってそうじゃなくて!




「藤堂くん、どうかした?」



勇気を出して声をかけると藤堂くんはキョトンとした顔でこっちを向いた



え、何その可愛い顔!!


可愛すぎる!



「えっと、ごめん、誰?」


「あ、えっと同じクラスの立花明里です!」


「あー、だからかなんか見たことあるなって思った」



覚えられてないのはショックだったけど、なんとなくでも全然嬉しい!



「藤堂くん、もしかして何食べるか悩んでるの?」



「うん、オムライスか焼きそばで迷ってる」




藤堂くんがオムライスを食べてるのも可愛いけど、焼きそばをワイルドに食べてるのもいいな〜



「えっと、立花さん?よだれ出てるけど」


「え!うわ!ごめん!ちょっとかくかくしかじかで。」



「立花さん先選んでいいよ、俺時間かかるから」



「え、いいの?あ、じゃあ、私オムライス食べたいから藤堂くん焼きそば買うといいんじゃない?」




「え?」




2つで迷ってるなら分け合えばいいって思ったんだけど、藤堂くんすごく嫌そうな顔してる…



「あー、ごめん、私と分けるの嫌だよね。ごめんね、じゃあ先に買わさせていただきます」



「待って、それがいい」



「え?」



「立花さんのオムライス俺にもちょうだい?焼きそばあげるから」



「いいの?」



「うん、嫌だったわけじゃないから。その発想がなかったなって思っただけ」



そっか嫌な顔じゃなかったんだ。ただ驚いてただけなんだ


よかった