馬の蹄は泥だらけの水たまりに反射して、日華の草原を駆け巡り。大地を揺らして馬なりに、悲しみの鉄騎兵と戦い向かい合う眼差しは。
遠くを見つめて敵将の元へ走らせ。鐘の音を鳴らした鋭い剣は、互いの心音を交差させて振りかざす。
「進め、国旗を掲げよ、絶の王に命を捧げよ」
「絶の王、バルムニクスを称えよ」

 恐怖と絶望に支配された騎士たちは、憎しみに支配された傀儡となり。恨みを求めて敵陣を駆け巡り、離れ行く家族と怒りの別れを告げて行く。
孤独の怒りは次第に膨れ上がり、命の尊さなど何処にもなく。在るのは傀儡としての運命だけであった。
「我らを奴隷のように扱うものを排除する」
「絶の王を討伐せよ、我らに自由を」

 敵の軍勢を前に、一歩も怯まない絶の王は。戦いの彼方に在るものを求めて。今ある何かを捨て去り。在るべき姿へと、変わり果てて行く。
剣と盾を構えて、馬に跨る姿は、疾風の如き速度で、敵を打ち抜いて行く。
「我が名は、バルムニクス ――
―― 行くぞ、アルブレイム」

 白い騎士イベリアは、馬の変動を変えながら。敵軍を圧倒して進む。土煙の中で、哀しむ間もなく敵兵を串刺しにして。無言の表情を浮べながら、我を忘れて進む先に、出口のない未来を見据えて走り抜く。駆け巡る敵兵の嵐を、地に伏せて。死体を蹴り飛ばしながら、進んでいく。
「全軍、突撃せよ、我々の勝利は目の前だ」

 大軍を蹴散らして進む、イベリアの前に現れた ―― 赤い騎士は。援軍を呼びつけ、仲間を呼び込み、白い騎士と合流して、戦場を駆ける、二人の騎士は叫ぶ。
「奴の狙いは何だ」
「この国の奪還だろうな」
「また、奴隷で支配するのか」
先の見えない戦いを前にして、絶望の軍勢を道なりに縫い、鮮やかに。
「突き進むぞ、絶の王を討伐せよ」

二人の騎士を目の前に、絶の王は槍を突き立て迎え撃つ。覇道を進まんと、全ての情を捨て去り。嘆く心を殺して。
「吊るした傀儡は、色を塗られなければ、絵は生きない」

互いの覚悟を、擦り合わせて。絶の王は怯み、剣の変動を変えて、バルムニクスの動きを止めた二人の騎士は、信じた互いの剣を合せて。
「私たちは、負けたりはしない」

 絶の王は、地面に叩きつけられ。馬は態勢を崩して、下ろされる。素早く体制を整え、膝を付いた。
土煙の中に魔法陣を書き示す。轟音と共に、草原を爆風で吹き飛ばす。
「我は、汝に命令する」

虎のような黒く巨大な肉体に、鋭い眼光と強靱な手足を持ち。二本の角を生やした。絶の結晶を呼び込む。
絶の王は、吹き在られる嵐の中で、立ち竦んで時を刻む。
「我を殺して、助けを求めるか、バルムニクス」

血の涙を流して、絶の結晶は問いかける。バルムニクスは戸惑いながら、仮面の下に涙を浮辺て問い返す。
「我を許せとは、言わない。懺悔の中で汝を求める」
「何ゆえ、汝を助ける、お前は、私に裏切られた」

―― 見えない敵を、許されぬ心を、復讐の牙に変え ――

「お前を、裏切らせたのは、私の殺意ゆえに」
「我を、奴隷にして、罪を背負わせた」
「罪ゆえに、懺悔と後悔を、自らで背負う」
「良かろう、私は、力を貸そう」

哀しみの中に愛を刻み、後悔の中に懺悔する。屈辱に塗れた過去を切り刻み、復讐の刃を胸に宿して。
「我が名は、ガルディナモス」