―――2年前
「あー体育やだなー。つかれるもん」
「分かるー。体力ないもん私たち笑」
他愛もない会話をして過ごす日常の風景。
「今日から教育実習生来るらしいよ!
よかったじゃん藍。かっこいい人いればいいね。」
「あ、。」
雷が落ちたような感覚だった。
ずっと会いたかった人に会えたような。
ずっと探していた何かを見つけたような。
そんな感覚。
声も名前も、この人がどうしてここに来たのか。どうやって生きてきたのか。
私は何も知らなかったけれど、ただ好きだとおもった。胸の鼓動を自分で感じた。
「藍?どうした?」
「ううん。なんでもない。」
目が離せなかった。
あまりにもかっこいい先生だった。
顔がかっこよすぎたというわけでも全てがタイプだったという訳でもない。なんだか分からないのに、ドキドキが止まらなかった。

気がついた時には遅かった。
どうにか先生とお話できないかと、必死になって追いかけた。実習期間は10日。必死だった。
「部活おつかれ様!」
「おつかれ!お願いがあるんだけどいい?」
「うん、どした?」
「忘れ物してないんだけど、したってことにして教室に戻ってもいい?先生いるかもしれないなって思って。覚えて欲しいの。」
「すごい愛だね笑笑いいよ」
―――
「あーハサミ忘れた!取ってくる!」
(先生いた、かっこいい)
「どうした?忘れもの?」
(話しかけられた!どうしよう)
「はい!取ってきました。さようなら」
「さようなら」
この一瞬が心から幸せだった。
その感情がもう恋だった。

その日から、休み時間の度、先生に話しかけに行った。覚えて欲しくて、話したくて、距離を縮めたくて。
先生に彼女がいると知ってからも諦める気はなかった。
10日が経った。
10日間はすごく短かった。奇跡と偶然の重なりで出会えたこと。だからもう先生に会うことは無い。そう分かっていたけれど、いざお別れとなると悲しくてならなかった。

――――――1年後
あれから約4回実習期間があって、沢山の実習生と出会ったけれど、先生の姿はなかった。
来る度来る度、
「鳴瀬先生の事知ってますか?」
何回も聞いてたどり着いた。
「鳴瀬はね、今3年生だから、来年来るかもしれないよ。」
―、。嬉しかった。また会えるチャンスを貰えた気がした。
冷静に考えてみれば、自分のクラスに配属されるか、同じ学年に配属されるかしない限り、
先生が来たとしても会えることは無い。
中学校は先生に初めてあった小学校とは違って、ほかのクラスには出入り出来ないし、他学年の棟には入れない。
1年後、自分にどんな未来が待っているだろう。
高鳴っている心を自分で感じた。

ーーーーー。2年後
こういう経緯があって今に至る。
「明日から来る教育実習生を紹介します。」
祈っているのか、願っているのか、緊張か、興奮か。自分の感情も分からない。
だけどこの後、担任の先生から発された言葉で私の毎日は変わった。
「5人紹介します。
国語担当 佐藤 蘭奈先生
理科担当 水谷 泰人先生
………………
次々と名前が呼ばれていく。
最後に、体育担当、
胸がなった。先生かもしれない。
また、会えるかもしれない。
鳴瀬 僚愛先生」
頭が真っ白になって、久しぶりの感覚に襲われた。先生に一目惚れした、あの時と同じ感覚。
生きててよかった。そう思った。
これは言うまでもなく奇跡だった。