10年以上前、桃香に駿を奪われ地元にいることが辛くて東京の大学に逃げてから、私は実家に帰っていない。

初めのうちは、向こうは向こうで仲良く暮らしているのだろうと思っていた。
それが・・・

「え、お父さんが駆け落ち?」

想像もしていなかったような話を聞かされたのは大学4年の春。
ちょうど桃花が地元の高校を卒業した年。
それまでまじめで酒もたばこもギャンブルもしたことのなかった父さんが、勤め先の中学校の生徒の母親と逃げた。

「嘘でしょ?何でそんなことになるのよ」
「知らないわよ」
桃花は逆切れ状態。

でも考えてみれば、私は実家から遠く離れた東京の地にいるからいいけれど、桃花や母さんは周囲からの好奇の目にさらされていた。きっと針の筵だったんだろうと思う。
父さんが出て行ってからすぐに母さんは体調を崩すようになり、入退院を繰り返すようになった。

もちろんそのタイミングで、地元に帰るって選択もあった。
高校を卒業したばかりの桃花に家のことを背負わせるのは酷なのもわかっていた。
それでも、私は地元には帰らなかった。