「声かけてみようか?」
「そうね」

見た感じかなり好み。
立ち居振る舞いや身に着けているものの雰囲気からしてハイグレードな感じだし、きっとちゃんとした仕事をしているんだろうなって印象。

「普通のサラリーマン、ではないわね」
「うん」
かなり高そうなスーツだし。

「弁護士でもないわ」
「そう?」
「弁護士にしてはおしゃれすぎ。普段スーツで仕事をしている人じゃないと思うわよ」
「そうかしら」

弁護士の嫁である泉美が言うんだから間違いないかもしれないけれど、見れば見るだけ興味がわいてきて、私も泉美も男性を凝視していた。

どうやら連れはいないみたい。
もちろん待ち合わせかもしれないけれど、すでに2杯目の水割りを空けているところを見ると、相手は女性ではないと思う。
デートの待ち合わせならこんなにハイペースでお酒を飲んだりはしない。

「声かけてみる?」
「うん」
こんな時、泉美も私もためらわない。

誰も知り合いのいないホテルのバーでの恥なんてかき捨て。
だからこそ平気で声をかけることもできる。
だって、私はそのためにここへ来たんだから。