何度も何度も頭をなでながら、そっと包み込んでくれる太郎さん。
私も太郎さんの背中に手を回した。

「ごめんなさい」

完全に私の完敗。
どれだけ抗っても太郎さんからは逃げられないと、やっと気づいた。
今更だけれど、私は太郎さんが大好きらしい。

「本当に手が焼ける」
少し穏やかな顔に戻った太郎さん。

でも、今までのよそ行きとは違う、渋い表情。
きっとこれが素の太郎さんなんだろう。

「美貴は、きっと白黒はっきりしないと気がすまないんだろうから言っておく」
「うん」

きっと大切な話なんだろうと、太郎さんを見上げた。

「僕の出向は2年か3年延びることになった」
「そんなぁ」
「いいから聞いて。ただ伸びただけだ。ゆくゆくはこっちに帰らないといけない。実家を継ぐのは僕しかいないんだからね。その時までに、今後のことを考えよう。美貴が僕の将来を案じてくれるように僕も美貴の人生を応援したい。今回の選択はあくまでも僕の意志だ。だから邪魔しないでほしい。いいね」
「・・・」
それでも私は返事をしなかった。

「ったく頑固者だな。僕は子供も美貴も諦められないんだ。いいね?」
「・・・はい」
ここまで言われたら頷くしかない。

「もう逃げるなよ」
「うん」

「絶対だぞ」

コクン。
「しつこいよ」

「誰かさんが逃げるからだろ」

うっ。

にやりと笑う太郎さんの意地悪い顔。
太郎さんには当分頭が上がりそうもないな。