私の妊娠が発覚してからも、太郎さんは相変わらず優しいまま。
いつも私を気遣ってくれて、私が嫌がるようなことはしない。
赤ちゃんのことだって、あの日「俺の子だよね?」と聞かれ「違います」と答えて以来詮索されることはなかった。
だから私も、「もう少ししたら地元に帰るのよね?」とは聞かない。
間違っても引き留めるつもりは無い。

「出張の予定って明日まででしたっけ?」
「うん、明日の夜まで。本当は一週間の予定だったらしいけれど、無理言って削ってもらったらしいわ」
「ふーん」
意味ありげな視線を向ける沙月ちゃん。

「何よ」
「いえ、美貴さん愛されてるなって思って」
「もう、沙月ちゃんたら」
私は耳まで真っ赤になった。

でも確かに、今の私は幸せだ。
一生分の幸せをここで使い切ったんじゃないかと思うくらいの幸福。