適当に服のシワを伸ばし、ハンガーに掛けた上着を羽織ると酔っ払い(もう酔ってはいない)は急いで玄関に向かった。

「アナタ名前は?」
「人に聞く前に先に名乗るのが礼儀じゃないんですか?」
「…それもそうね私は一之瀬凛子」
「須見裕章」
「このお礼は必ず。駅、どっち?」
「左」
「オッケー。じゃあまた」

バタバタと用意を整えあっという間に出ていった一之瀬凛子。
「なんだアイツ?」
この時の俺は礼なんて期待していなかったし、むしろもう二度と会うことはないと思っていた。