知らなくて良かったこと

緑色に色づいた葉は、風に揺られて雫を落としていく。その雫は夏の太陽に照らされて、目を離すとその隙にいなくなっていた。
ふと、ピコンと音がした。
【遊ぼうぜ】
メッセージはそれだけ。たったの一言。俊介(しゅんすけ)からだった。でも、それだけで心が踊った気がしてバカバカ私、と頭を横に思い切り振ってみる。
【いいよ】
【よし、じゃあいつもの場所な】
いつもの場所、とは2人でつくった秘密基地のこと。まさにヤクザが歩いていそうな薄暗い路地裏だ。
よいしょ、と立ち上がる。たくさんはしゃいでも大丈夫なように、学校の体操服を着て家を出た。




「よっ」
あちこちに捨てられているビニールに入ったゴミを投げるようにどかしていくと、目の前に俊介が現れた。
「珍しく早かったじゃん」
「まあ、私だって俊と同じで暇なんで」
悪ふざけでそう言うと、俊介がむっとした顔をする。
「失礼な。俺だって忙しいときはそれなりに忙しいんだかんな」
忙しいときは、という言葉に思わず反応してしまいそうになるけれど、ここは敢えて黙っておく。まあ、俊介が優しすぎるから我慢しないように、という配慮だけど。
「明日、試合だな。まだ復帰できねーのか?」
「仕方ないじゃん。ていうか、治るまで時間かかるし」
明日は私たちが所属している卓球部の大会。でも、私はそれに参加することは出来ない。先日、自転車を漕いでいる時に転んで、手首を捻挫してしまったからだ。ほんの少しだけラッキー、と思いながら、お母さんと顧問の先生には残念だという顔を見せた。
「お前、下手してでも親にラッキーなんて言うなよ」
俊介が笑いながら言う。
「分かってるって。」